つくるを考えるインタビュー

イラストレーター タダユキヒロさんに聞いた「日常の中の好きな瞬間の切り取り方と、嫌にならないため、続けるために行う日々の工夫」

たこ焼き君

タダ ユキヒロさん
Yukihiro Tada
イラストレーター

大阪出身・大阪在住のタダさん。たこ焼きをキャラクターにした自身考案の「たこ焼きくん」Tシャツを着て現れた。大阪の食べ物といえば、たこ焼きと答える人は多いと思うが、大阪出身のタダさんはたこ焼きが好きではないという。好きなものを可愛く描くことはできそうだが、苦手と感じていても、それを隠して可愛く表現できるのだろうか。そんなイラストレーター、タダユキヒロさんにとっての"つくる"を伺いました。

※内容は取材当時のものです(取材日 2023/07/21)

これ以上絵を描き続けるのは無理なんじゃないか

イラストレーターになろうと思った経緯を教えてください。

タダ

子どもの時から絵を描くのが好きで、絵を描く仕事をしたいと思って絵を学ぶために大学に行きました。ぼんやりと「画家ではないな、イラストレーターかな」と思ってやりはじめました。

金子

画家ではなく、イラストレーターがいいと思った理由はなぜですか?

タダ

自分が影響を受けてきたものが漫画やアニメ、特撮やゲームだったので、エンタメ系の仕事を想像していました。美術館や美術自体は面白いと思うけど、自分はアートから絵に入ったのではなく、あくまで漫画などから絵の世界に入っているからですかね。

イラストレーターのキャリアのきっかけは何ですか。

タダ

大学を卒業して東京で1人暮らしをはじめたのですが、当時はインターネットもそんなに普及してなかったし、東京に行くことが今とは違う感じだったと思います。最初は自分で出版社に絵の持ち込みをして、できる範囲で仕事を取りに行きました。相談する人もいなかったから、なんとなくこんな感じかなと見よう見まねで始めました。パズル雑誌で間違い探しを描いたのが最初の仕事だったと思います。

即興で描いていただいた、たこ焼き君

即興で描いていただいた、たこ焼き君

キャリアを積み重ねる中で、絵のタッチに変化はありましたか。

タダ

最初は、2種類の絵のタッチで仕事をしていました。可愛い系のテイストと、細かい部分も描き込むロボットっぽいテイストの絵です。自分ではロボット系が格好良いと思っていたけど、クライアントには可愛いタッチを求められることが多かったです。ロボット系の絵で仕事を続けたかったけど、細かく描き込むから描くたびに肉体的、精神的にもへとへとになるし、クライアントの要望とも違うこともあって「これ以上絵を描き続けるのは無理なんじゃないか」と感じていました。当時は「1円にもならない絵を描いたら駄目」って思っていて、仕事じゃないと絵が描けない、落書きすらできなくなっていました。そんな時、京都のトランスポップギャラリーのやっていた私塾に参加することになり、何か作品を描いてくるように課題を出されたんです。課題だから描けたのかもしれない。「筆ごこち」っていう年賀状に使うような筆ペンを使って、気楽な感じで、旅行の写真を基に絵を描いたらすごく楽しくて、皆からも好評でした。旅行の絵はぼんやりと描きたいなと思っていたんですが、描きたくても自分の中の自分が許さないためずっと描けずにいたんです。仕事ではないけど課題という形なので、やっと許しが出たというか。だいぶ精神的にヤバかったんだと思います。自分も「肉体的にしか疲れない、精神的には疲れない絵柄が良いんじゃないか」って思えるようになって、だんだんと今の絵になりました。

金子

今の絵柄も細かい表現をされていると思いますが、タダさんからすると描く感覚が違うんですね。

タダ

全然違います。今の描き込みは肉体のみが疲れるんですが、以前の描き込みは肉体的にも精神的に疲れる描き込みで‥。うまく説明はできないのですが、肉体的にのみ疲れる描き込みの方が、結局観る人も、気持ちよく感じてくれるんじゃないかなと思っていて。今の絵は元々あった「可愛いタッチ」に自分が思う「格好良いタッチ」をプラスできるようになった感じですね。

「Tako-Yaki ZOMBie」 タダユキヒロ

「Tako-Yaki ZOMBie」 タダユキヒロ

どこか寂しそうなものに自分は引っ掛かる

キャラクターはどのように誕生するのでしょうか。

タダ

依頼があって1から考えることもあれば、普段から落書きを描き貯めたストック帳があって、そこから企画にあったキャラクターを拾ってきて制作することも多いです。Moshというキャラクターは、3.11の震災の後に「MIT×100」というグループ展に参加した時に作品として発表したのが最初かも。人類が何千年も進化した結果、放射能や気候変動に適応して性別もなくなり、あの姿になったという設定を考えていました。でもその初期の設定だとハードすぎるので、今は妖怪的なものと捉えていて、人に聞かれたら「人には見えていなくて、彼らからも人は見えていないですよ」っていっています。人にも見えている時もあるんですが、まぁ1つの設定ということで。たこ焼きくんも元は落書きで、上海・大阪市の交流記念としてのグッズ制作の仕事で初めて使いました。気に入ったからたこ焼きくんは今も描いています。

金子

タダさんは粉ものが苦手と聞いたことがあったので、たこ焼きくんが生まれたのが不思議でした。

タダ

たこ焼きは子どもの時に毎週末食べていて、もう一生分食べているので、わざわざ食べようと思わなくなりました。「なのに、なんでたこ焼きを描いてるんですか?」って言われるのですが「大阪出身だからたこ焼きを好きじゃないとダメ」とか「大阪のソウルフードなので普段から食べていなければだめ」とかの圧力のようなものとの決着のつけ方が食べることではなく描くことで自分なりに昇華させたんだと思います。たこ焼きくん、描くのはすごく好きですね。

タダさんが描くときに大切にしていることは何ですか。

タダ

可愛いキャラクターを描く時は自分が「可愛い」と思っているところを見せたいと思っています。一般の人が「可愛い」と思うところと、自分が「可愛い」と思うところが、かぶっていない時があると思うので。「このポーズを描いたら大多数の人は納得するだろうな」って頭をよぎるけど、自分の思う可愛いポーズ、シチュエーション、良いと思う表情を大切にしています。天真爛漫で陽気なものではなくて、ちょっと言葉は強いかもしれないけど不憫というか、寂しそうなところがある方が好きです。街中にある名前も付いてないキャラクターでも、どこか寂しそうなものに自分は引っ掛かる。たこ焼きくんも「食べられるまでの一瞬の間に、彼らが見た夢の世界」を描いていて、どれだけ陽気に過ごしていても、最後は食べられるところが惹かれるエッセンスなのかなと思って描いています。

金子

たこ焼きくんが見た夢って思うと、たこ焼きくんが可愛ければ可愛いほど、可哀そうですね。しかも一瞬という、短い時間なんですね。

タダ

人間から見たら一瞬かもしれないですね、たこ焼きくんには長い時間かもしれないけど。

「Go! Go! TAKOYAKI KUN」 タダユキヒロ

「Go! Go! TAKO-YAKI KUN」 タダユキヒロ

明るいものと寂しいものの対比が好き

タダさんの作品は背景も印象的ですが、どのように選ばれていますか。

タダ

「この風景にキャラクターが立っていると絵になるだろうな」「キャラクターにこの風景を走らせたいな」と思ったら写真を撮りますね。思い出として見返すだけの写真もたくさんありますが、絵に使えると感じた場所やものを写真に撮っていると思います。誰かと散歩していると、自分だけ変なところを見に確認しにいったりするので、なかなか散歩が進まないことも。グッとくるものでいうと、工場や経年劣化したトタン、クレーン、パイプ、メカニック的なものにすごく惹かれます。実家が小さい町工場だったので、子どもの時に見ていた風景だからかな。経年劣化しまくった末のものだから、廃墟とかも好きですね。さびれたものと美しい夕日の組み合わせのようなものが大好きなんです。ただ、最近考えてしまうのが、旅先の町の絵を描くことも多いのですが、もしかしたら住んでいる町の人が望んでいる風景ではない部分を切り取って自分は描いているのかもしれないなと。自分の町が描かれていると思って見てみたら、さびれた場所が描かれた風景が出てきて、それを見てがっかりする人もいるかもしれない。一方で住んでいる町の人の気持ちまで考えなくても良いかなと思ったりもするんですけど。

金子

逆に「こんな部分を描いてくれたんだ、良くない部分だと思っていたけど美しいのかも」って思うと、新たな価値の発見、気づきに繋がる可能性につながるような気がします。

タダ

そう思ってもらえたら良いですね。

作品を見る人にどのように感じてほしいですか。

タダ

あまり多くは求めていないですが、描いたイラストは基本的には「なんか良い感じだな」とは思ってほしいかも。自分の絵を見た人にネガティブな感情が湧くような絵はわざわざ描きたくないし、自分はやらなくても良いとは思ってます。

金子

タダさんが描いてる時に感じてる感情に近いものを、皆も思ってくれたら良いなとか?

タダ

近いかもしれないですね。

「education」 タダユキヒロ

「education」 タダユキヒロ

教育の現場で、学生と接して感じたことはありますか。

タダ

大学のマンガ学部で教えていて、学生たちとは20~30歳くらい離れているわけだけど、すごく違いを感じます。自分たちが10代後半だった時と、今の10代後半の人たちの考え方に大きな違いがあるというのは、実際に彼らとコミュニケーションを取らない限り、気が付かなかったと思います。もし自分が同じ歳の人達としかずっと関わりがなかったら、相当やばかったんじゃないかと思います。偉そうな言い方になってしまいますが、彼らには絵が上手くなってほしいし、生活できるための仕事に就けるようになってほしいですが、ただ皆が作家になる必要はもちろんなくて「人生が豊かになれば良いな」と思いながら関わっています。知らずに社会に出て苦労したことが本当にたくさんあったので、自分が大学生の時に教えて欲しかったことを授業には盛り込むようにしています。基本的には絵が上手くなってほしいから指導するけど、自分たちが受けた指導方法で指導すると、学生たちは絵が上手くなるという目的から遠く離れてしまうことになることもあるから気をつけていますね。「40歳過ぎたら、歳下の人からしか学ぶことはない」みたいな言葉があったかと思いますが、一理あるなと感じています。学生たちと関わることで感覚の違いに気付かされましたね。

「Mosh in OSAKA」 タダユキヒロ

「Mosh in OSAKA」 タダユキヒロ

学生と関わったことで、作品づくりに関して感じたことはありますか。

タダ

目の前にいる10代後半の人たちが好きなものと、自分が描いているものはだいぶジャンルが違うと思っているから、自分の絵を見て学生たちは「どういう感想を持つのかな」とは思います。デジタル特有のRGB的な色彩に溢れた絵は、常にCMYKでデジタルからアナログへの色の再現性を心配していた自分には羨ましく感じたりもします。自分の学生時代を振り返ると、白黒の絵からはじめて、カラーの絵を描くという順で学んだけど、今はデジタルで描く人が多いので、いきなりカラーの絵から描きはじめる人が多いですね。もちろん色の使い方を熟知している子は使い方も上手いけれど、色に助けられてなんとか画面が持っている人もいて、色がなかったら、良いものが描けない学生も多い印象です。色がない方が簡単だと思って白黒の絵の課題を出すと、「白と黒だけで勝負しなきゃならない」と負担になるみたいで、ちょっと衝撃でした。あとは、デジタルツールの性能が良すぎて、本来は絵の具などの道具の一部でしかないはずのアプリが、道具だと思って使っているというより、そのツールがないといきなり何もできなくなってしまう人が多いかも。道具と作家との立場としての力関係が、入れ替わっているというか。自分の周りにいる、同世代の作家も皆さん何かしらデジタルを導入している方ばかりですが、万が一デジタルが使えない環境になってもどうにかしそうだなとは思います。その道具との力関係は、描く以前のアイデアをだしたり、色々なものから刺激を受けたりする段階にまで影響が及んでいる気がしています。

「Mosh in OSAKA」 タダユキヒロ

「Mosh in OSAKA」 タダユキヒロ

自分が「つくろう」と思える状態を、死ぬまで保ち続ける

タダさんにとってつくるとは何ですか。

タダ

つくることによって、つくる前にはなかったものが目の前に出現するので、大層な言い方をすると生み出すみたいなことだと思います。つくるのが好きか嫌いかでいうと、嫌いだったら続けていない、自分が好きなことなんだと思います。嫌なことじゃないというか。他に取り柄もないし、つくることを完全に辞めたらどうなってしまうのだろうとは思います。

つくる時に欠かせないものは何だと思いますか。

タダ

つくることは自分がつくりたいと思わないとできない。自分が寝込んだりしていたら、つくりたいと思わないだろうし、ひたすら寝ていたいと思うんじゃないかな。今は、自分が「つくろう」と思える状態を、それこそ死ぬまで保ち続けるのが大事だと思っています。つくることが嫌にならないように、疲れ果てたりしないように、疲れたら描くのを一旦やめるとか、嫌になって筆を折らないように、つくり続けていくように工夫することがすごく大事だと今は思っています。

金子

継続するために、工夫し続けるということですね。

タダ

つくり続けるために、好きな旅行や散歩に行くし、寝たい時はちゃんと寝る、もう嫌だと思ったら出掛けなかったり、嫌なことはやらない。嫌な人とも会わない。いきなり筆を折って、一切描かなくなった作家さんもいると思いますが、続けていくために工夫しないと本当に思いもよらないきっかけで「もう辞めた」ってなるんだと思います。工夫の内容は人それぞれだと思いますが、自分で意識しないと、つくり続けることは難しいんじゃないかなと思います。

「恋文」 タダユキヒロ

「恋文」 タダユキヒロ

「恋文」 タダユキヒロ

「恋文」 タダユキヒロ

折れないための工夫が必要

つくることを通してどのような感情を得ますか?

タダ

昔はつくることは苦しいってすごく思っていました。今でも思うけど。つくっていて喜びや充実感はもちろんあるけど、それはスプーン1さじくらいで、残りは大変だったり、苦しいことの方が多い気がします。キャラクターが可愛く描けたら充足感はあるし、グッズを買ってくれた人が喜んでくれたら嬉しいですが。

金子

喜びがスプーン1さじになる理由は何かあるのでしょうか?

タダ

基本的に毎日の生活をなんとか片付けているみたいな感じなのですが、その中でいうと、つくることは好きなことなんだと思います。でも作品づくりに付随するやらなくてはならない作業や事務的なことが自分にとってはつらいことが多くて、残った嬉しさがスプーン1さじくらいになっているんだと思う。歳を取ったらもっと楽になると思ってましたが、そんなことはなくて。

金子

本当に工夫し続けないと、辞めてしまうことになる?

タダ

そうです、もうポキーンって折れちゃう。だから折れないための工夫が必要で、工夫しながら続けていくことが大事なんだと思います。状況が変わると、もっと楽しくなるかもしれないですし。

タダさんを取り巻く環境やキャリアについての展望はありますか。

タダ

ブックフェアで海外に行ったりしますが、目的の半分くらいは旅行が楽しみで行っています。日本だけじゃなく、色々な国に仕事ができる環境があるといいなと思っていますね。仕事ができる場所が少しでも広がって、各地に知り合いや友達ができたら楽しいだろうなと。だから身軽に動けるようになりたいですが、実際には家にあるたくさんの物をどうしたらいいのか、わからないけど。

金子

身軽に仕事をしていくことを考えると、持ち物は課題になりますね。ご自身の持ち物を断捨離したいと思いますか?

タダ

捨てたいとは思わないですね、でもこれからずっと増えていくわけだからね。ある時突然、優先順位が変わる瞬間がきて「もう要らない」ってなるかもしれないですけど。

たこ焼きくん完成

手芸についてどんなイメージを持っていますか。

タダ

手芸といえば、毛糸や編み物のイメージくらいに留まっています。自分は縫ったり編んだりをしないので、これまであまり興味を持てずにきました。だからボタンが取れても付ける気力がないんです。もうボタンが取れた服は着ないという選択になっていますね。

金子

すごく気に入っている服でも、着なくなりますか?

タダ

服をお直ししてくれる人に頼んで、ボタンを付けてもらったことはあります。ボタン付けは家庭科で習ったし、ネットで調べたらできるかもしれないけど、人に頼んだ方が上手くできるのは目に見えているし、どうしても気力がなくてできないです。小学校で習った時の、苦手なイメージが強いのかも。自分の中では「手芸」は「家事」に近いというか洗い物や掃除と一緒で、自分に余裕があったら気分転換として楽しめるかもしれないけれど、今はできるだけやりたくないというか。労働という印象が強いです。

金子

タダさんの言う、家事と繋がりがあるイメージは私も持っていて、「ボタンが外れなかったらいいのに」って思いますね。

タダ

編み物もちょっと労働っぽいイメージがあります。

金子

私は編み物は、ホビーやDIY感を持っています。それは前職で「Giiton」っていうセレクトショップを担当していて、編み物を実際やって、イメージが変わったのかもしれないですね。

タダ

あと、手順や技法をたくさん学ばないといけないイメージもあります。もっと自由で気軽にできるイメージを持っている人は楽しめそうですけど、自分の中では手芸は面倒くさそうだなっていうイメージがどうしても拭えないですね。最後にこんな回答ですみません。

金子

手芸をはじめるまでの気軽さが必要なのかなと思いました。本日はありがとうございました。

かっこいいと思う手芸道具はありますか?

  • 古いミシン形が格好いい

好きな手芸の素材はありますか?

  • ボア生地モンスターっぽくて気になる

つくっている時のお供はなんですか?

  • 甘いものと音楽飲み物より甘いもの、全く入ってこない音楽
タダ ユキヒロさん

タダ ユキヒロ Yukihiro Tada

大阪生まれ。国内外でイラスト・コミックを発表。趣味は散歩と旅行。

https://tadayukihiro.com/ https://www.instagram.com/tadayukihiro/ https://linktr.ee/tadayukihiro
タダ ユキヒロさん

聞き手:金子
手芸をやりたいという気持ちは強く、材料は集めるものの・・・(お察しください)
手仕事をほどこしたプロダクトや作品、場所が大好き。
手芸をやりたいという気持ちは強く、材料は集めるものの・・・(お察しください)手仕事をほどこしたプロダクトや作品、場所が大好き。

編 集:渡辺
手芸初心者。
あらゆる手芸を少しずつかじって楽しんでいる。