津乃吉 吉田大輔さんに聞いた「育てる気持ちでつくる美味しさ、健やかでいられるための選択」
株式会社津乃吉 吉田 大輔さん
Daisuke Yoshida
代表取締役
京都、五条大橋からほど近く、大きな通りから静かな道にひと筋入るとそこに津乃吉がある。店内はコンクリートの無機質さにアンティークの小物の温かみが組み合わさり、不思議と落ち着く空間。その奥には整然とした調理場があり、そこで吉田さんはだしをひく。お鍋の中で菜箸を静かに動かす姿は、鍋の中で泳ぐカツオや昆布を導いているようにも見える。帰り道には「白ご飯を炊こう」と思わずにはいられないはず。株式会社津乃吉の吉田大輔さんに"つくる"について伺いました。
だしは、ひかずとも自然とできていたりするもの
吉田さんの考える「だし」とは。
吉田
これが正しいっていう「だし」はないんです。その人がどんな味が好きか、どんな料理をつくるかによって、どんなものでも良いんです。
だしは引くものじゃなくて自然にできるもの、無理をして頑張ることではないという風に、みんなが思ってくれたらいいなと思います。
何かを湯掻いた汁もだしですし、もっと上手く料理の中に取り込めるように情報がいっぱい出てくれたら良いですよね。
ただ「だしをひいたらこういう味になる」ということを知らない限り、面倒くさくてやっぱり引かないですよね。だしの美味しさをまず知ってもらわないと「だしをひこう」とは思ってもらえないので、知ってもらうようにするのは僕らの役割ですよね。
吉田さんの考える飲食の魅力とは。
吉田
京都の大学で農学部に進学し、食品に関わる勉強をしていたんです。実際はアルバイトを通じて食に触れる機会の影響が多かったですね。お好み焼き屋や喫茶店、バーテンダーの仕事を通じて、お客様が目の前で食べている姿を見ることが楽しくて。直接お客様の反応が見られることが、飲食業界の大きな魅力、何とも言えない快感です。
自分のつくるもので誰かが喜んでくれると、自分の中の欲求が満たされる気がして、それが食品に携わる魅力だと思いますね。
今の時代の真ん中に生きているからこそ
商品開発のアイデアはどのようにして生まれますか
吉田
基本的には自分や家族も含め、食べたいものをつくることが基本の考えです。例えば、今試作しているなめ茸も、つくるきっかけは家族が好き、特に奥さんが好きだからでした。
正直めちゃくちゃミーハーなところがあって、流行りは気になるし、今の時代の真ん中に生きているからこそアンテナを張って、自ら楽しみながらヒントを得ています。
素材を活かし切るための工夫とは。
吉田
考え方としては「無理矢理使い切らなければならない」という思いでやるのではなく、「単純にまだ美味しいものを捨てるのがもったいない」と感じています。これを使うことでさらに美味しくなるのであれば使い切りますし、逆に他のものにも使えないものは、思い切って捨てます。
ただし、素材をつくっている人を知ることで、自然と「もったいない」という気持ちが生まれることは大切ですし、逆に、誰がつくっているのか分からないと、その気持ちは湧きづらいのかもしれないとも思いますね。
例えば個人商店でコロッケを買ったら、お店の人の顔を知っているし多分捨てないと思うんですよ。もともと、そういう感情が「もったいない」の始まりなので、つくり手の顔が見えるというのは、食品ロスの考えでいうと、すごく大事かなと思っています。僕たちも出来る限り、つくり手さんを知るという努力をしています。
手づくりのこだわりについて教えてください。
吉田
実は、手でつくることが「こだわり」というわけではないんです。極端ないい方をすれば、機械ではやりづらいので仕方なく手でつくっているという。でも、やっぱり手でつくらないと自分の思っているものにはならないですね。「手でつくること=良い」という風潮もありますが、「手でつくること」を目的にするのではなく、手でつくる良い部分を活かさないと手でつくる意味がないと思います。だからこそ自分の手をつかうことの意味を理解しながら取り組むように気をつけています。
イベントやコラボレーションから得るものは何ですか。
吉田
「食」というキーワードの中で、誰かと何かをすることで、自分の心が躍ります。自分自身が健やかでいられることもすごく大事だと思うので、楽しみのためにやっています。楽しそうな人を見ると、見た人も楽しくなると本人が思っているので、自分が楽しんでいる姿や誰かと一緒に楽しんでいる姿を見せると、他の人にも多少は影響するのかなと。
あとは後付けで、沢山の考え方や技術に触れることが出来ると「結びつく」ような感覚を得られて、プラスになることしかありませんね。
周りの皆さんに共感を得たいという思い
吉田さんにとって「つくる」とは何ですか。
吉田
自己表現ではありますね。自分のつくったものが他の人にどう思われるか、どういう反応を貰えるのかということも大切なことです。周りの皆さんに共感を得たいという思いがあるので、今の自分にできること、今の自分が好きなことを表現できる手段かなと思います。
「つくる」時に欠かせないものは何ですか。
吉田
やはり気持ちです。昔から言われている「美味しくな~れ」という思いは、料理をつくる上では絶対に欠かせない部分です。気持ちがビヨーンって食べ物にのって美味しくなる、なんて非現実的なことは起こらないけれど、気持ちで所作が変わるという答えに辿り着きました。思いがあると、作業が優しくなったり丁寧になったりすることが絶対にあるんです。ちいさな仕草ひとつが変わるとやっぱり料理は美味しくなる。それぐらい料理って、繊細なものだと思っています。
味や色が付いていくことが楽しいですし、そこは「料理を愛しているんだなこの人」って思われるような動きにはなっているかもしれないです。
「育てる」という気持ち
「つくる」時に大切にしていることは何ですか。
吉田
商品をつくる時は「育てる」という気持ちでつくっています。焼肉屋で「これは私が育てている肉」って表現、使いませんか。ものすごく丁寧にその肉は自分の責任で焼ききる、正にそれです。ひとつひとつの工程が大切で、その積み重ねが結果的に良いものを生み出します。自分のつくるものに対して愛情を持って作業することが大切だと思っています。
手間を惜しまず丁寧に作業すると、自分自身も納得のいくものがつくれると思います。するべき手間であれば惜しまないということですね。
「つくる」を通して新たに理解したことはありますか。
吉田
「つくった人の思い」がつくるものに乗るということは確信しました。
僕がつくる理由は「自分が好きなものを、他の人にも好きって言ってほしい」という究極の欲求を満たすためで、共感を得たいという思いからなんですよ。好きな本や服、自分の好きを発信して、皆さんに共感してもらえると、心が満たされますし、自分自身が健やかでいられることを理解したので、ずっとつくっていきたいなと思っています。
「つくる」を通じて感情の変化はありますか。
吉田
父の跡を継いだ時、正直あまり好きじゃない商品があったんです。好きじゃなくてもつくらないといけない、その時の心の健やかじゃない感じがすごく嫌で、その商品はつくるのをやめました。
経営や数字の部分と、自分のつくり手としての気持ちのバランスのとり方はすごく難しくて。経営者でもあるので売り上げも大事ですけど、その前に「自分はものづくりをする人間だ」ということに、確実に重きを置いています。
自分がつくっていて健やかでいられない、ずれを自覚しているものはつくるのをやめて、心が健やかでいられるようにしています。
物事には絶対2面性があるので、結局は自分で決めるしかない。元々メンタルはすごく弱いんですが、苦しむことも次の糧になる。きっぱりどちらかを選ぶことは全然出来ていないですけど、そこは自分と向き合いながらっていう感じです。
吉田さんの今後の展望を教えてください。
吉田
うちの仕事を取り巻く環境は、今非常に厳しいですね。一般家庭のおつまみだった干したスルメイカは超高級品です。看板商品に使っている、ちりめんじゃこの値段も上がっています。値段が上がるだけならまだしも、海のものが獲れなくなっていることを如実に感じるので、非常に不安な部分です。
うちは大枠でいうと佃煮屋さん、ダウントレンドで厳しい中、どうしていくのか真剣に考えないといけないなと思います。
最終的には、家族で食堂をやる夢がずっとあるので、その夢を叶えるためにこの津乃吉をなんとか続けていく。次の世代に継がせようっていう気持ちは正直あまりないんです。「守ってきたものを次に繋げた方がいいよ」と言われますけど、辛さも知っていますし。できれば子ども達も巻き込んで白いご飯が美味しい食堂を開くのが今の展望なので、そこに向かっているという感じですね。
手芸についてどのようなイメージをお持ちですか?
吉田
手芸というと、母親やおばあちゃんの手仕事というイメージがあります。女性の手仕事という感じがします。僕の周りに手芸に関わっている人もいるので、人と比べて身近な存在だと思います。食の世界と同じように、手仕事の効率の悪い苦しさというのはイメージとして通ずるものがあるのかなと思いますね。ただ、手に芸と書いて「手芸」である意味っていうのがもっとちゃんと伝われば、手芸を楽しむ人も増えると思います。普段の生活の中にある程度手芸という要素がないと、なかなか「手芸をやろう」とはならないので。僕たちの世代を含めてやっぱり「守っていかないと」とは思いますね。
かっこいいと思う手芸道具はありますか?
- 編み物の棒、古いミシン服がめちゃくちゃ好きなので
好きな手芸の素材はありますか?
- ファブリック連続的なデザインで布になっている姿
つくっている時のお供はなんですか?
- 音楽五感が活かせるレベルで楽しむ
吉田 大輔
Daisuke Yoshida
アルバイトで飲食業の魅力にはまり、父の跡を継ぎ「津乃吉」代表となる。「食べ物は命を繋ぐもの」を理念に食事が豊かになるものの食品開発・製造・販売を行う。他業種とのコラボレーションやイベント出店を積極的に行う。
https://www.tsunokiti.com/ https://www.instagram.com/tsunokiti/聞き手:金子
手芸をやりたいという気持ちは強く、材料は集めるものの・・・(お察しください)
手仕事をほどこしたプロダクトや作品、場所が大好き。
手芸をやりたいという気持ちは強く、材料は集めるものの・・・(お察しください)手仕事をほどこしたプロダクトや作品、場所が大好き。
編 集:渡辺
手芸初心者。
あらゆる手芸を少しずつかじって楽しんでいる。