黒澤商店 黒澤哲也さんに聞いた「手をあわせ受け継いでもらえるようにと願ってつくるお仏壇、伝統工芸士の考える変わっていくこと」
有限会社黒澤商店 黒澤哲也さん
Tetsuya Kurosawa
仏壇仏具 製造・販売
黒、茶、白、金、色とりどりの細工や絵柄など様々な仏壇があるなか、お仏壇と聞いてどのようなイメージを思い浮かべますか?黒漆と金箔が特徴の1つでもある伝統的工芸品「大阪仏壇」を製造・販売している「黒澤商店」。 鳳駅から徒歩圏内にある店舗には大小の仏壇が並び、製造場所は店舗の裏にある工房。数多い仏壇づくりの工程ごとにスペースが設けられている工房で、黒澤さんのつくるについて伺いました。
自然と今のものづくりの道に
大阪仏壇の職人の道に入られたきっかけは何ですか。
黒澤
家業として私が3代目です。幼い時から仏壇が身近にあったので、自然と今のものづくりの道に進みました。祖父は黒檀や紫檀を使った唐木仏壇の職人で、父の代から金仏壇をつくり始めました。私は広島県で5年程修業させてもらいました。日本には仏壇仏具の産地が17か所ありますが、広島仏壇と大阪仏壇は似ているところがあるんです。修業した工房は手仕事にこだわっていて、塗りや金箔、組み立て、細かい彫り物や吹き付け、各工程に職人さんがいました。当時のほうが仏壇づくりは盛んだったので、多くのことを吸収できたと思います。
黒澤さんの考える大阪仏壇の魅力を教えてください。
黒澤
千年前から存在する自然の塗料である漆が、最高の天然塗料だと思っています。漆を使い、多くの職人が長い時間をかけてひとつの仏壇をつくりあげることは、その仏壇が代々受け継がれる価値をもつ証になると思います。メンテナンスすれば何百年と残せますし、残すべきものだと思っていますね。
歴史あるものを次に残していこうという気持ち
どのような姿勢で仏壇の制作に取り組まれていますか。
黒澤
私が会社を継いだ時代は、良いものをつくればわかってもらえました。職人になってこれまで必死で仏壇づくりを続けてきましたが、気がつけば仏壇業界への不安感が出てきていましたね。今の時代は手づくりの仏壇にこだわることは難しい。今の仏壇の主流は家具調で、漆や金箔、蒔絵を描いた仏壇ではなくなっています。仏壇の歴史は約1300年余り、歴史あるものを次に残していこうという気持ちで取り組まなければ、次の世代に引き継がれる物はつくれないと思います。それだけの歴史があるのに、今の時代に沿わないからといって無くなって欲しくないですね。次の時代にも受け入れられて、残していける仏壇の形に変えていくことが大切だと思っています。
仏壇づくりの中でこだわっている工程はありますか。
黒澤
全ての工程が大事ですが、特に表からは見えない部分の作業はすごく大事。基礎が悪ければ、表面が良くても本当に良いものにはならない。つくっている間はずっと手を抜かずにつくるというのが本来のお仏壇だと思います。力の抜き入れではなく、常に一定にずっと気をつけ続けています。下地や漆は、1回塗って終わることはまずなくて、塗り重ねながら整えていきます。1回でやろうとすると無理が出る、整えようとする工程の積み重ねが仏壇づくりだと思っています。
お仏壇を現代に受け入れてもらうためにしている工夫はありますか。
黒澤
現代の家に合わせて仏壇も形を変えないといけません。定番の仕上がりは古くさく思われる原因のひとつで、定番のイメージは変えていいと思っています。定番の蒔絵から少し違う印象の絵を描くだけで見栄えは変わります。同じ形であっても、最後の仕上がりに違う現代風のアイデアを加えると、出来上がった仏壇はすごく変わって見えるし、今の人たちに受け入れてもらいやすくなります。
お仏壇を後世に伝えるために、どのような方法を試されていますか。
黒澤
お仏壇は伝統的工芸品クラスとなれば、制作に1年以上かかることもあります。漆を塗って仕上げるやり方もあれば、蝋色(ろいろ)漆といって、何度も漆を塗って研ぎ出して鏡のような表面に仕上げる技法もありますし、蒔絵師に描いてもらうと更に何カ月も掛かりますね。今、本物の漆を使っているお仏壇は数少ないです。漆に比べると、科学塗料の方が手間をかけずに綺麗に仕上げやすいからです。科学塗料はすぐ乾きますし、職人が手作業で描いていた柱の彩色をシートのような紙を貼り付けたら完成する方法もあります。極端な話、インターネット上で画像が並ぶと、細かな違いはわからないと思います。細かな違いを理解してもらうためには、まずは違いがあることを知ってもらう。知名度の低い大阪仏壇は、知るきっかけを持ってもらうことが大事なのかなと。大阪仏壇の基本の知識、さらに自分の持っているこだわりを併せて伝えていきたいです。
繋がりをつくっていける、次にずっと繋がる
黒澤さんにとってつくるとは何ですか。
黒澤
つくることは、次に繋がること。つくって終わりではなく、人に見てもらう、使ってもらうことまで含めてつくることだと思います。自分の手を離れた後にも、つくったものが繋がりをつくっていける、次にずっと繋がる。
黒澤さんのつくる時のステップを教えてください。
黒澤
仏壇が売れない時も、頭の中では常に「こういうものをつくろうか」と考えていました。つくることは手を動かすだけではなく、頭の中から最初の一歩は始まっていると思います。勢いも大事ですが、勢いだけでは完成まで行きつけない。頭の中でまず考えて今後のことを考え終えたら、手を動かす一歩が踏み出せると思います。
つくり続けたからこそ、得られた感覚はありますか。
黒澤
チャレンジしようと思うようになりましたね。職人になったはじめの頃は、受け継いできた形を変えようと思わなかったけれど、きちんとした仕事をしていれば、斬新ともいえるデザインに挑戦して良いのではと考えるようになりました。10年近く前に世代交代や皆さんの考え方が変わり、急激にお客さんからの反応が悪くなった時期があったのですが、まずは定番の絵柄を変えることから始め、次は仏壇の定番の形を今でいう家具調の形にまで崩した黒漆塗りの伝統的工芸品をつくりました。はじめから皆さんに受け入れられたわけではありませんが、良い印象を持っていただいた方が多かったです。仏壇仏具の伝統的工芸品の全国の大会に出品しようと思えたのもチャレンジでしたね。
つくることで発見したことはありますか。
黒澤
つくり続けていれば、すこしずつ進歩していける。作業時間が短縮できることも進化。当たり前のことですが、効率を上げないと駄目ですし、時間が短くなることは手を抜くことではなく、進化していることだと思います。
つくるために気を付けていることはありますか。
黒澤
体調が悪い時や、自分のキャパシティが超えそうな時は思い通りにいかないし、納得いくようにはできません。体調や感情も落ち着いた、心身がともに整った状態でなければつくることはできないと思います。体の状態と感情は、わりと繋がっていると思うので全体的に整った状態でないと失敗も多くなりますし、思うようにいかないですよね。失敗も多くなります。そういう時は本当に気が合う友達と会って気分を変えたり、あえて何も考えないようにぼーっとしたりしますね。
知ってもらいたいという気持ちが強くなり
つくることでご自身の変化はありましたか。
黒澤
仏壇以外のものをつくっていこうという気持ちの変化や、皆さんに漆や金箔貼りの体験をしてもらおうと思いはじめたのも変化。つくるだけの人間だったけれど、今は大阪仏壇の良さを伝えていきたいという気持ちが強くなりました。仏壇の形も進化もしていっていますし、海外製の仏壇も増えています。国内と海外生産の違い、技術の違いを知ってもらいたいという気持ちが強くなり、わかってもらうためには体験もやっていこうと。組合の人や地域の人も巻き込み、小学校や百貨店、公民館のような場所で体験会をすることから始まりました。今思えば良い方向に広がっていると思います。知名度は思ったよりは広まっていないですが、何もしないより広まっていると感じます。
つくることで何を得られますか。
黒澤
仏壇づくり、お店づくり、お客さんとの関係づくりにおいても何かしらつくっている。つくらなくなったら現状からも落ちていくし、得られていたものが全てなくなってしまう。何もつくらず動かないと落ちるというか、現状さえも維持できない。つくっても現状を維持する止まりかもしれませんが、つくらなかったら現状からも、伸びていく可能性も落ちてしまうと思います。
今後の展望を教えてください。
黒澤
言いたくないですが、この仏壇の業界は酷い状態です。だから少しでも変えていきたい。仏壇に戻るために、新たな取り組みをやっていかないと、原点の仏壇をつくり続けることは、今の世の中では難しいです。漆のお皿をつくっているのも、お皿について話す機会に「実は私は仏壇職人なんです」と仏壇の話題に広げられるからです。仏壇だけにとらわれると広まらない。特に今の時代は、思い切って守備範囲を広げることが大事だと思います。
手芸についてどのようなイメージを持っていますか。
黒澤
手芸は小学校の時に財布をつくったり、小さいぬいぐるみをつくったりしていました。手芸屋さんも仏壇づくりに使用するフェルトや平たい紐をよく買いに行きますね。店頭のサンプル品を見て思うのは、糸と針でよく立体的な形のものをつくれるなといつも思います。単純にこんな形のものが出来上がるんだと感心しています。キットもたくさん販売されているし進歩のある業界というイメージでした。
渡辺
気軽に手芸を始めていただきたいと、新商品も多く販売されていますね。
本日は貴重なお話ありがとうございました。
かっこいいと思う手芸道具はありますか?
- 太い針漆のごみを取るときに使う
好きな手芸の素材はありますか?
- フェルト
何かつくっている時のお供は?
- 缶コーヒー ブラック。一日に何本か飲む。
黒澤 哲也
Tetsuya Kurosawa
伝統工芸士(漆塗部門)。幼少の頃より仏壇の世界に親しみ、家業を継ぎ仏壇の世界へ。仏壇制作の基礎を広島県の工房で修業する。
https://kurosawa-shouten.co.jp/聞き手・編集:渡辺
手芸初心者。
あらゆる手芸を少しずつかじって楽しんでいる。